1-4 ボドゲが一大ブームにならない理由

ここまで、ボードゲームのすばらしさを語ってきましたが、 聡明な方なら「そんなに素晴らしい趣味なのに流行してないのはなぜ?」 という疑問を抱くのではないでしょうか?

私はその答えは「初心者に優しくない環境」にあると考えています。
ボードゲーム自体は間違いなく面白いものなのに、こと初心者が始める際には”罠”が多い。
それによって本来ハマってくれるはずだった人がボードゲームに見切りをつけていることが多いような気がします。
そこで今回は、特に初心者が嵌まりがちな”罠”とその回避方法を解説していきたいと思います。

ハードルの高い趣味と低い趣味とは?

趣味に貴賤はありませんが、始めるときのハードルの高さが趣味によって異なることは純然たる事実です。

例えば「野球観戦」は思い立ったらすぐにでも始めることができる裾野が広い趣味と言えます。
始めやすい故に、あまり詳しくない初心者でも周りに同じような人がいっぱいいますし「初心者向け」の情報もあふれています。

それに対して同じ「野球」でも「野球のプレイ」が趣味となるとそのハードルは大きく上がります。用具を揃え、時間を作り、そして何より「同じようなレベルで同じような熱量でその趣味に打ち込みたい」という人やコミュニティを見つけて所属しなくてはいけません。

別にハードルが低ければ低いほどいいとは限りませんが、ハードルが高すぎて初心者の流入がない趣味は、特に若者が減ってくる日本においては趣味の世界全体の市場規模が縮小していく傾向にあると思います。

この観点でいうとボードゲームは気の合う「人」と結構な「物理的拘束時間」(そして収納場所…)を必要とするため決してハードルが低いとは言えません。
このような「物理的ハードル」の高さはずっとあまり変わっていないことが「ボードゲーム=マニアックな趣味」となっている一番の要因と言えるでしょう。

ただ、一方で「心理的ハードル」に関しては近年大きく軽減されていると思います。
昔語りになってしまいますが、私がボードゲームを始めた10数年前、ボードゲームの世界はもっともっとマニアックでした。
「ボードゲームカフェ」と言われるような施設はほとんどありませんでしたし、現在東京ビッグサイトで行われている「ボードゲームマーケット」がまだ浅草で行われていたとき、会場はちょっと臭かったです笑
しかし今はYoutubeやテレビでもたまに紹介されることもあり、特に若者の心理的ハードルは下がっています。
このチャンスを逃さず新規層の流入に繋げられるかが業界の全体を左右していくのではないでしょうか?

初心者を襲った重量級の罠の悲劇

この記事を書いている際、ボードゲーマーの中で話題をさらった事件(2chまとめ)がありました。
それが「初心者重量級ゲームブチギレ事件」
概要は以下の通りです。

・youtubeでパーティーゲームをやっているのを見て「面白そう」と感じた投稿者が単身ボードゲームカフェへ

・空いている卓は1卓のみ。「そこまで難しくない」という言葉を信じてセットアップが進んでいた「テラフォーミングマーズ[1]」の卓に入れてもらう

・「そこまで難しくない」は「重量級ゲームの中では」であり、ルール説明されても目的もやることもイマイチ理解できない

・最初のうちは適宜質問しながらプレイしていたが、自分のせいでゲーム進行が妨げられるので徐々に質問できなくなる

・結果的によく分からないまま引いたカードをそのままプレイするだけに。当然他のプレイヤーと差が開いていく

・全く逆転の目もなくなった中で、まだ結構な時間同じゲームをしなくてはいけないことに絶望

・訳も分からず打った手を笑われたこともあり激昂。駒や箱をぶちまけて暴れる

・店長に取り押さえられ、ゲーム代を弁償。二度とボドゲなどしないと誓う

…この出来事が本当にあったことかどうかは分かりませんが、 このように最初から非常に難しいゲームに入れられて理解できず(orぼろ負けし)心折れた人はきっと多くいるように思えます。
 このブログ全体を通して強調したい持論に以下があります。

一般人にとって「中量級までのゲーム」と「重量級のゲーム」は別物である
そしてそれを「重量級ゲーマー」だけが気づいていない

重量級ゲームは中量級までの多くのゲームと異なり、「適性」と「慣れ」の双方がないと決して勝てません。 初心者の立場でいうと「慣れないうちは重量級ゲームを全力で回避する」というスタンスは非常に重要です。

では、初心者が避けるべき「重量級ゲーム」とは一体どうやって判別すべきでしょうか?
一番手っ取り早いのは箱に必ず書いてある「プレイ時間」の確認です。
各種数値項目については第2章で詳しく解説しますが、完全初心者の場合60分で黄色信号、それ以上だったら赤信号[2]です。
また、こちらも第2章で解説するBGG[3]というサイトでボードゲームを調べると「重さ(1.0~5.0まで)」の項目が出てくるのでこちらがより正確です。
私は現在、この重さごとに分けたボードゲームトーナメントを行っていますが、最初は1.5くらいのゲームから始め、2.0以上のゲームを避けてると概ね上手くいきます。3.0を超えるようなゲームは適性と慣れが必要なので、絶対にやめましょう…。
ゲームシステムで言うとラウンド制で徐々にやれることが増えていく「拡大再生産」というシステムは要注意[4]です。
「最初の方の手番で失敗してしまうと逆転することはほぼ不可能」というタイプのゲームは経験の差がもろに出ます。
初心者にとってルールを聞いただけでしっかり理解するのは至難の業。 だからこそやりながら覚えていって、「やっと理解してきたかな?」という時にはもう手遅れ…というゲーム体験は、 非常に悲しいゲーム体験になってしまいます。

広がる「重量級」の輪

このように、初心者にとっていい体験にあまりならない「初手重量級ゲーム」ですが、 実はこれを回避するのは昔よりもはるかに難しくなっています。
こちらのnote記事に先ほど紹介したBGGの重さがどのように推移してきたかを分析したものがあったので引用すると、 ボードゲームの重さは長年2.0という中量級で推移していましたが、徐々に上がっていき執筆時点の最新である2017年には重ゲー水準の2.7程度まで上昇しています。

そこから5年。
私の肌感ではゲーム会でプレイされるゲームの平均はさらに重くなっている気がします。
誘われるのはBGGで重さ3.0を超えるような本格的なゲーム。
その間に1.5未満の軽いゲームが挟まれるようなイメージで、私が最も万人が楽しめると思っている「中量級」ゲームの影がすっかり薄くなってしまったような気がします。

おそらくこの理由は市場がどんどんニッチな方向に突き進んでいるから。
さきほど初心者には向かないといった拡大再生産のゲームは、逆説的に「やればやるほど上手くできる」 という特徴をもっており、上手く回せた喜びはこれまで上手くいかなかった分だけ強くなります。

ただ、その魔力に強く憑りつかれた人間の一部は闇落ちし、 初心者にとって絶対にプレイしたくないプレイヤーになってしまう人も出てきます。 このようなプレイヤーは重ゲーを求めて転々とし、 そこかしこに不愉快な悪意を残していくことがあるのも悲しい事実です。

重量級ゲーマー以外が残らない世界へ

現在、ボードゲーム業界には明らかな追い風といえる事象がいくつも存在します。
気軽にボードゲームを遊べるカフェはこの10年間で激増していますし、各種YouTuberやテレビ番組などの紹介のおかげで特に軽量級のゲームに関しては一般にも知名度が上がってきました。
ただ、一方で多くの一般人が本当に面白い!と思える「中量級」の知名度はあまり広がっているとは言えず、初心者が準備もないまま別物である「重量級」の世界に突っ込んでドロップアウトしてしまっているのではないでしょうか?

ちなみに、ゲームの重さだけでなく、人口分布に関しても同じことが言えます。
無料のソーシャルゲームの課金率は約40%、重課金率は10%に満たないという話はよく聞きますが、初心者:中級者:上級者が6:3:1のようにものすごく嵌っている人はいるけど「すそ野は広い」場合は初心者に優しくなります
ただ、この人口分布は私の勝手なイメージだとひいき目にみても2:1:7くらいのイメージです笑
この特殊性というか異様さは特筆すべきであり、初心者側もマニアック側も十分に「変な業界である」ことを認識する必要があると思います。

まとめ

前回までの記事に書いてきたようにボードゲームという趣味はものすごく賢い人だけが楽しめる選ばれた趣味では決してありません。
どんな人でも楽しめる趣味であるにも関わらず、初心者が楽しめない環境になっているのであれば、まずはそれをしっかり認識して初心者は気を付けること。
そして、紹介される機会が少なくなっている誰もが楽しめる「中量級」をしっかり紹介することが大事になります。
これこそが私がこのブログを書き始めた最も大きなモチベーションのため、今回はちょっと詳細に重量級ゲームの罠について触れてきました。

次回からは第2章として実際にどのようなことに気を付けながらゲームを選び、相手にルールを説明し、楽しく遊べばいいのかについて触れていきたいと思います。

それでは‼よいボードゲームライフを‼

1-2 幸福論から考えるボードゲームの本質的魅力(新しいタブで開く)

参考文献

  1. ボードゲーマーが自分のベストを決めて投票する「the one hundred」という企画において2023年時点で7年連続で1位という偉業を成し遂げた人気ゲーム。数百枚のカードを使い火星を人間の住める環境にして移住(テラフォーミング)することを目指す。やりこみ度や自由度は非常に高いがその分最初は何やったらいいのか全然わからないし、プレイヤー間の駆け引きも薄い。経験者がやって楽しいゲームが初心者には向かないことがあることの典型

  2. ボードゲームに書かれている時間は「慣れてる人が」「あまり長考せず」やることを前提にした時間であり、説明から入る場合はもっと多くの時間がかかります。ボドゲ慣れしてない人の集中力の限界はだいぶ早いので30分ゲームからやることをお勧めします。

  3. 正式名称は「Board Game Geek」世界中のボードゲームの情報がまとめられており、私のような数字好きのボードゲーマーはいつもこのサイトを涎を垂らしながら見ている。

  4. 厳密に言えばほとんどのゲームは拡大再生産ですが、ここでは特にその傾向が強いものを指しています。